| 人は、厳しく荒涼たる景色にも心引かれる。世界の高峰ヒマラヤは、そんな自然を象徴するものの一つと言っていいだろう▼岐阜市の元教員で洋画家の渡辺康男さん(七〇)が退職後、このヒマラヤと向き合っている。初めて訪れた二○〇二年。「人を寄せ付けないその厳しさに圧倒された」と鮮烈な出会いを振り返る▼以来、ツアーや単独でヒマラヤに出かけた。標高五千b余の高地からエベレストなどの峰々が一望できる。低酸素に苦しみ肩で息をしつつ対峙したヒマラヤ。壮大な山脈の表情を画家として何としても描きたくなった▼教員時代から北アルプスにもたびたび登った。「北アは厳しくとも手前に林があり、谷川がある。遠景・中景・近景の調和がある。けれどヒマラヤは、鋭く険しい峰々、岸壁、さらに多くの登山者を苦しめてきたアイスフォールが広がるばかり」▼ヒマラヤ山脈は大陸の造山活動で生まれた。その力は中国内陸部に大地震ももたらした。その厳しさをどう表現するか。画廊パスワールド(岐阜市)の個展会場に並ぶ作品はアトリエでの格闘の結果だ▼かって人物や社会的な題材を描いてきたのに今、ヒマラヤに引かれるのはなぜか。その謎を探るためにも渡辺さんは絵筆をとる。何者も寄せ付けぬはずのヒマラヤにも温暖化の触手が伸びている。「氷河が解け橋が流された所もあるんです」と心配する。 岐阜新聞(1面) 2008.05.23 |