「編集余記」

 

「顔」は人にとって重要なモチーフだ。古代の伎楽面から能面、文楽の頭、はてはおかめ、ひょっとこ、現代の露店に並ぶアニメキ一ヤラクターの仮面までさまさまだ▼表現、スタイルも多彩。鳥獣の化身像から憤怒の仁王様、さらに絵巻では引き目・かぎ鼻の王朝人から笑い、叫ぶ庶民の表情まで際限がない。喜怒哀楽の活写の一方で、現代人の無表情だって時代の顔の特色の一つに違いない▼人間が初めて出会う顔と言えば親の顔と、その瞳の中に小さく映る自分の顔だろうか。顔との付き合いは人が生まれてからこの方途絶えることがない▼岐阜市出身の彫刻家鈴木裕三さんが、顔をテーマにした個展を岐阜市の画廊パスワールドで開き、昨日の本紙文化欄でも紹介一されている。会場に入ると「顔と仮面と体」と題した作品群が迎えてくれる。その作品の多くは顔と胴が少しズレている。具象の胴にお面のような顔が幾つも並んだ作品もある▼「もともと顔も体も一つのものだが、不思議と制作にズレが出る。体を仕上げるのに半年かかっても顔は一年かかるといった具合に。同じのようでも違うんです」と鈴木さん。アーティストの直感は、どうも一つのものではない顔と体を見抜いている。その遊離とズレが、時に人を悩ませ自己を凝視させる▼顔、手、背中 -一体のようでばらばらなもの。またその逆。人は謎に満ちた存在だと語りかけられているような気持ちになる。女も男も毎日鏡に向かって顔を見続ける。その謎を解こうとするように。

岐阜新聞 (1面)編集余記 2007年8月18日

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