エネルギー秘めた「異界」
佐藤昌宏岐阜大教授・ 31日から岐阜市で初個展

霊気漂う鳥獣画
遠い記憶たどり自己確認

2002年5月29日 岐阜新聞掲載

魚や両生類など蝟(い)集する生き物で描かれた獣や、妖気漂う樹下美人図-。日常の中に秘められた幻想世界を垣間見るような作品群を、画家で岐阜大教授の佐藤昌宏さん(47)=岐阜市中=が制作し続けている。自らは絵師と名乗る佐藤さんの「異界」の光景は、どこか少年時代に見た夢の風景にも似ている。現代版"鳴獣戯画"ともいうべき佐藤さんの県内初個展が、31日から6月18日まで、岐阜市栗矢田町のギャラリーパスワールドで開かれる。

佐藤さんは加納高美術科、東京芸大油画科卒、同大大学院修了。少年時代の佐藤さんの心をとらえたのは昆虫であったり、図鑑に描かれた恐竜たち、それに鳥羽僧正の鳥獣戯画図だった。神社や森に入れば茂みに漂う霊気におびえた。日常の、あるいはそのすき間に漂うような「異界」。そんな不思議な世界、生き物たちを再現したい。そんな思いが筆を持つことにつながった。描くことは、日常の世界に潜むもう一つの世界と出合うことだった。画学生だった佐藤さんが関心を持ったのは、中世ネーデルランドの画家ボッスであったり、魚や野菜で時には人面を構成した静物画だったりした。生き物や人間を描きながらも、それは日常にはない世界だった。在学中に、佐藤さんの制作の道を決定づけた出会いがあった。一つは卵で顔料を練る絵の具・テンペラを西洋から積極的に紹介した田口安男、いま一人は解剖学を通し生命進化の流れとその生命の記憶をたどった三木成夫の両教授だった。「一般的な油彩に体質的になじめなかったが、田口先生から、線描の面白さを生かすことができるテンペラ画を学んだ。また三木先生は、動物も植物も生き物としてつながっており、胎児は太古からの系統発生をたどるように生命の歩みとその記憶を秘めているという。生き物のつながり、新しい生命観を切り開かされた思いだった」と振り返る。テンペラ画の傍ら、近年は彩色を施したテラコッタの動物像も制作している。犬、ヤギ、馬などの素焼きの俑(よう)の肌に極彩色で描いた蛇やトカゲ、魚たち。動物像は、密教の曼茶羅(まんだら)、呪術めいた生命に生まれ変わる。「私にとって描くことは、色彩、構図だけの価値観だけではなく遠い記憶をたどり、描きながら今の自分を確認する営み。夢想、混とんの世界にこそエネルギーが秘められている気がする。そんな『異界』を自らつくり出す"絵師"であり続けたい」と自らの制作を位置づける。展示は、「地のいきもの」の鳥獣画はじめ、江戸期の画家・曽我粛白の「柳下鬼女図」に着想を得た「樹下逍遥図」など墨、テンペラを使った平面二十点(100号からサムホール)と、「地の神」と名づけたテラコッタ十点を予定している。


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