渡辺康男絵画展 「エベレストへの道」によせて
'05年当画廊にて「My Dream HIMALAYA」をテーマに、初めての山の絵の個展を開催しました。第2回の今回は、'06年10月24日から11月15日にかけて行った、ネパール側からエベレスト(現地名サガルマータ)を望む最高地点カラパタール(5450m)への旅で取材した作品を発表します。併せて'03年のアンナプルナベースキャンプと、04年のランタンレンジに取材した作品を展示します。
この旅ではまず首都カトマンズから空路ルクラ(2804m)へ。ルクラからは標高差2600m、60qの道のりを9日かけて歩きました。この道は、エベレストを目指す登山隊がよく使うので、俗に「エベレスト街道」と呼ばれています。途中山岳民の交易の中心地ナムチェバザール、壮麗なラマ教寺院のあるタンボチェに投宿して人々の暮らしの一端にふれることができました。またこの道は名山の宝庫でクァンデ、タウチェ、アマダブラム、タムセルク、寄り道したチュクンリで見たローツェとカンレアム等みな絵心をそそられます。
目的地のカラパタールでは、左に秀麗な山容のプモリ、右に天を突くような鋭い頂を持つヌプチェを従えて、エベレストが間近にその姿を現します。サウスコル、ヒラリーピーク、イエローバンド…知識として持っていたエベレストの名高いポイントを肉眼で確かめることができました。眼下には、古今の登頂者を苦しめてきたアイスフォールが顔をのぞかせています。
ヒマラヤは両極端が並存する存在だと思います。その荒々しい外観は地球の創成と破壊を同時に見せてくれます。ただ悠久の創成に比べて、地球温暖化による破壊の爪痕の方が顕著に見てとれます。頂上に光の当たる時も足下の谷はまだ闇の中です。登頂成功から半世紀、エベレストの頂には今も生と死のドラマがくり返されています。住民は信仰の“聖”と、地べたにへばりつくような暮らし“俗”をごく自然に融合して生きています。
この体験を作品化することは、なかなか困難な作業で、満足のいく表現ができたとは思っておりません。雪と氷の張りついた岩壁、土砂に覆われた氷河等色彩的には単調な対象を表現するために、青を基調にしながら、薄塗り厚塗りの変化、青色の絵の具を数種類用いた色調の変化、さらにホワイトからグレーの階調に留意しながら進めました。山域が広大なため、たいてい山の懐に入ったポジションでの制作になります。近景、中景、遠景のはっきりした日本や西欧の風景を描く場合の空間表現が当てはまりません。何層もの奥行きの表現に代えて、表面1層のディテールに重点を置きました。代わりに線と面の強弱や流れ(動き)に重点を置いてみました。モチーフの持つスケール感に少しでも近づくよう、初めて横長の3bを越える画面を採用しました。構想の際にオランジェリーのモネや日本の絵巻物を念頭に置きました。
私にとってヒマラヤは、まだまだ挑戦し甲斐のある対象です。そのためには低酸素の高所になるべく長時間滞在できる能力・体力が必要で、制作と同時に身体の鍛錬も日頃の課題にしたいと思います。
ご高覧いただければ幸いです。
渡辺康男
|